2009年5月31日日曜日

MAHIRO @Cut&Paste2009

Cut&Paste」は、2005年11月にNewYorkで始まった「デジタルデザイントーナメント」です。

このイベントは、メーカーがクリエイターへのデジタルツールの販売だけじゃなくて、新しい時間と空間を提供ることで、新人クリエイターの発掘、クリエイティブスキルの進化、オーディエンスとのシンパーを創造していく、デジタル・インタラクティブ・クラブイベントとなっています。簡単に書けば、観客の目の前で限られた時間内にPCを駆使して作品を創り競い合わせる大会ですね。スポンサーとしてAutodesk、Wacom、Pantone、55DSLなどが協賛や協力、ツールの提供を行っています。15分、20分の短い時間の中で、与えられたテーマに沿い、如何にクオリティの高い作品を創り上げるか、という、ちょっとDTPやデザインを齧ったことのある人間にとっては非常に興味深い、エキサイティングな内容となっています。

これまで開催されてきたイベントでは、2Dデザイン部門しか無かったのですが、今年から3Dデザイン部門と、モーションデザイン部門が新しく増設され、 Cut&Paste2009は
過去最大の規模となっています。大会(予選)はロサンゼルス(2/21)、サンフランシスコ(2/28)、ポートランド(3/7)、ボストン (3/14)、ニューヨーク(3/21)、トロント(3/28)、シカゴ(4/4)、アムステルダム(4/2)、ロンドン(4/4)、 ベルリン(4/18)、バルセロナ(4/25)、ミラノ(5/9)、香港(5/15)、上海(5/23)、東京(5/30)、シドニー(6/6)、の世界16都市で開催され、2Dデザイン部門、 3Dデザイン部門、モーションデザイン部門において各1名の優勝者が選ばれ、6月20日に予定されているニューヨークの世界大会への参加権を得ることができます。

ということで、2009年5月30日(土)、渋谷WOMBで開催されたCut&Paste2009アジア地区東京大会に行ってきました。ちなみに、もちろんトーナメント参加ではなくて、新しくできた3Dデザイン部門にプレイヤーとして参
加するスタジオミーツ代表でジニアスアキバメンバーでもあるMAHIRO氏の付き添いです。

渋谷WOMBには14:00に到着。Cut&Paste現場担当のJhon氏がキラキラ輝く目でブリーフィングを行いました。画像が不敵な笑みを浮かべながら直前ブリーフィングを受けているMAHIRO氏です。質疑応答のとき、さっそくMAHIRO氏が挙手。「72dpiの解像度ということだが、ピクセル数で教えてほしい。」という質問に、Jhon氏も通訳もちょっと戸惑いの表情。後で聞くと、これまでの仕事では解像度をまったく気にしたことがなく、設定方法も知らない、とのこと。DTPの世界では解像度というのはまず最初に抜ける関門であり、これまで気にしたことが無いというMAHIRO氏に、僕も驚愕しました。この日、まず最初の問題勃発です。まあ、サイズ指定のダイアログに一緒に表示されてると思うよ、大丈夫大丈夫、と言いながら、僕は一抹の不安を感じていました。

実は不安材料は他にもありました。Cut&Pasteの東京大会は、部門増設という新しい要素に運営側が激しく機動力を削がれていたらしく、公式なルールは、なんと前日まで通達されていなかったという経緯がありました。また、
品は与えられたテーマに沿って制作されますが、これも2日前にメールで告知されるという状況。このテーマ告知がされた28日に、一応作戦会議をしよう、ということで二人でブレストをやりましたが、翌日、MAHIRO氏は「他の参加者が必死に悩んでいるとすれば悩み甲斐もあるが、予選の状況を鑑みるに、それほど対して悩んでいないと思われる。そんな状況の中、俺が悩むのは徹底的におかしい。」と言い出し、作戦立案を放棄。いや、一応考えた方がいいのでは、という進言にも「おまえはブレストをやろうと言いながら、途中で寝てしまった。そんな奴の言うことは断固として聞けない。」と怒りだす始末。そんな折での解像度ネタだったので、この調子で行くとMAHIRO氏は途中で激怒して家に帰る可能性も捨てきれないなあ、とぼんやり思った次第。

ブリーフィングが終了すると待機を命じられますが、大人しく中で待つような人間ではないので速攻で遅昼飯を食べに行きました。円山町のど真ん中には飲食店が殆どありません。しょうがなく、近くにあった「つけ麺なかむら」でいいか、と問うと、「あまりラーメンは好きではない。」とMAHIRO氏。何故かを問うと「麺ごときに金を払う奴の気が知れない。肉を食わせろ。」と、また怒りだしました。他に店らしい店も無く、なんとか説き伏せて店に入りました。「つけ麺なかむら」は結構美味しかったです。大盛り、中盛り、小盛りすべて同じ値段というサービスもとても気に入りました。今度あぶらそばも食べに行きたいです。

さて、マシンチューニングタイムがあるというので、16:00には開場戻り。開場は17:00、イベント開始は17:30です。しかし、一向にチューニング作業開始の合図は無く、17:00直前にようやくマシンに触ることのできる状況となりました。写真は何かへの怒りを抑えつつスタッフのセッティング作業を見守るMAHIRO氏。

ここでまた問題が発生します。新設部門ということもあって運営側は手探り状態で環境作りを行っていたようです。すの参加者からも要望を聞き、公平で安定したシステムが組まれるハズでした。MAHIRO氏はMAXという3Dソフトウェアで参戦する旨を運営側に伝えてあり、また、「絶対に日本語版を入れておくように。」という要望も再三に渡って伝えていたのですが、Windows機に入れられていたのはバージョンも異なる英語版ということが直前になって判明。MAHIRO氏は「英語爆発しろ。俺は今後絶対に英語は喋らん。」とブツブツ言いつつ、開始を待つこととなりました。後で聞いたところ、英語版ソフトはご丁寧にプルダウンメニュー等もアルファベット順に並んでおり、作業は常に項目を探しながら行ったそうです。adobe製品のフルバージョンアップに悩んだ方や、初めてVistaに触ったときの元XPユーザーはその苛酷な状況が容易に理解できると思います。

17:30頃には観客もそこそこ入り、多少時間が押し気味でイベントが始まりました。3Dデザイン部門はファーストバトルとなります。プレイヤーは3名。他の方のこともいろいろ書きたいのですが、ここでは敢えて書きません。第一線のテーマは「Virus(ウィルス)」。前日ブレスト時に、MAHIRO氏が持ち出してきたアイデアに不安を感じていた僕は、もっと別のものを考えようと言っていたのですが、つけ麺を食べながら「もうアレで行くことに決めている。」と断言されたので見守ることにしました。

会場中央には巨大なリアプロジェクターが5つ設置され、観客は個々のプレイヤーの作品が出来上がっていく様をリアルタイムで見ることができます。画面が並んでいるので作業の遅れややり直しなども素人でも肌で感じることができます。また、3Dデザインでは、モデリング作業が中心となるので、ある程度作業が進まなければプレイヤーが何を作っているのか分かりづらいのが特徴です。

しかし、開始10秒後にはMAHIRO氏の画面に人型のモデルが突如現れ、瞬時にポーズ設定が施され、作業がガンガン進んでいきました。形のあるものが画面に出ていると、自然に観客はそちら画面に注目します。中央の巨大プロジェクターはステージ上のメインカメラがプレイヤーの作業や手元を映し出しているのですが、他のプレイヤーの作業画面よりもMAHIRO氏の作業画面の方が絵的に分かりやすいので、頻繁にメインカメラもMAHIRO氏を追うことになりました。英語版でバージョンも違うのに作業はサクサク進んでいきます。

開始10分後に最初のカウントダウンコールがあります。その時点でMAHIRO氏のモデリング作業は殆ど終わっていました。他のプレイヤーは細かいモデリング作業に追われ、観客はまだどんなものが出来上がるか予想もできません。残り10分コールから数分して、MAHIRO氏の画面上ではバックグラウンドテクスチャが現れ、レンダリングも終了。そこでMAHIRO氏は突然Windowsのスタートボタンをクリックして何かを探し始めました。後から聞くと、マインスイーパーを立ち上げて遊ぼうとしていたのですが、インストールされていなかったとのこと。しょうがないので、MAHIRO氏はマシンにインストールされていたAutodeskの他のソフトを立ち上げ、タブレットの描き心地を試し始めました。巨大なスクリーン上に現れた意味不明な立体落書き。MAHIRO氏が遊んでいることを理解しているのは僕だけだったので、それを見て2階席で一人爆笑し、外人観客からものすごい眼で睨まれました。とても怖かったです。

終了5秒前から観客と共に秒読みが始まります。その直前、MAHIRO氏の隣のプレイヤーのマシンがクラッシュ。もう一人のプレ
イヤーはまだレンダリング作業に移ることができないまま。MAHIRO氏の落書きはようやく3秒前に終了し、作品が画面に映し出されました。

MCが一人一人の感想を拾っていきます。最初はMAHIRO氏。「時間が余った。」と何故か怒りだすMAHIRO氏にMCが困っています。他のプレイヤーは、不本意な結果に相当落胆しているコメントを残していました。「…と、いうことで、みなさん大変だったようですが…」とMCが締め始めたのを聞いて、またMAHIRO氏は「人の言うことを聞いているのか、俺は時間が余ったと言っているのだ。大変などとは一言も言ってもいないし、感じていない。」とMCに喧嘩を売り始めたので、他のスタッフが慌てて制止に入りました。

まあ、とりあえず、第一戦は無事終了です。


控え席に戻ってきたMAHIRO氏に、レン
ダリングの最後に絶対に不必要と思われるブラー効果が入って作品がぼやけた感じになったので、あれはやめた方がいい、と進言したところ、「俺はアートが嫌いなんだと言っただろう。部下にも仕事を教えるとき、絶対にアート作品を作ろうと思うな、と教えている。今回おまえはこれがアートバトルだと言った。あのブラーをかけることであれは俺の嫌いなアートになった。それのどこが悪い。」と激昂。ここで僕は、わかったわかった、でも次はやらないよね?、という余計なことを言ってしまいました。案の定、MAHIRO氏はニヤリと笑いながら、「次も絶対やる。」と断言。溜息。

3Dデザイン部門のファーストバトルが終わると、2Dデザイン部門のバトルが開始されました。が、このあたりは省略します。この部門は昔からあったので、観客も勝手を知っており結構盛り上がっていました。それを見ながらアート嫌いのMAHIRO氏は怒りをずっと抑え続けている表情をしていたので、僕は話しかけることもできませんでした。

セカンドバトルのテーマは、「Descent from Hea
ven(降臨)」です。開始直後、MAHIRO氏の画面には惑星の地面っぽいテクスチャマトリックスが表示されました。その後約10分は同じ画面が続き、何の作業をしているか全然わからない状態。どうしたのか、とハラハラしながら見ていると、怒りの形相のMAHIRO氏が挙手してスタッフを呼ぼうとしています。マシントラブルでもあったのかな、と心配していると、すぐ近くにいたイベントの最高責任者がMAHIRO氏に近づきます。この人は英語しか喋らないということをMAHIRO氏は事前に知っていたので、英語が嫌いなMAHIRO氏は「おまえじゃない。英語はあっちへ行け。日本語を呼べ。」と日本語で怒鳴りつけました。

どうやら、英語のメニュー項目に嫌気がさし、やろうとしている作業ができないようです。日本語がわかるスタッフに「メニュー項目を一瞬で日本語に全部変えろ今変えろすぐ変えろ」と無理難題をふっかけています。スタッフがそれはフェアじ
ゃない、というようなことを言ってしまったらしく、MAHIRO氏の怒りは頂点に達しました。「あれだけ日本語バージョンを入れておけと言ったのにお前らは一体何を考えているのか。それがアートか。ここは治外法権か。俺はこれから3D業界の頂点に立つ人間である。その暁にはお前らが業界に存在できなくすることも意のままだ。これ以上俺を怒らせるな。」と叫び、巨大スクリーンが設置されている支柱を鷲掴みにして崩壊させようとしだしたので、慌ててスタッフが制止。「Autodeskの人間を呼んで来い。絶対に来ているはずだ。今呼べすぐ呼べ。」とMAHIRO氏が絶叫したので、慌ててAutodeskの一番偉い人がステージに上げられました。そんなに騒いだにも関わらず、ヒアリングは一瞬で終了。MAHIRO氏は何事も無かったかのように作業を続け、繰り返し執拗に開閉する作業ウィンドウが画面に映し出され続けました。

怯えたMCが小さい声で10分前コール。それから数分が経過してもMAHIRO氏の画面には変化がありません。15分が過ぎたあたり
で、地面のようなテクスチャマトリックスに劇的な変化が訪れます。それまで平面だったテクスチャの中央がいきなり崩壊し、地面が割れ、土砂が飛び散り、ぽっかりと巨大な穴が開きました。呆気にとられていると、MAHIRO氏は穴の上に何かの作業点を複数配置し、微調整を始めているようです。

30秒前コールがされ、ようやくMAHIRO氏がレンダリングを開始。火星から送られてくる画像表示のように上部から表示されていく作品には、最初は作業点の効果を見ることができませんでした。ミスったか?終了5秒前のカウントダウン。もう再レンダリングの時間はありません。レンダリングが終了してしまい、画像がすべて現れた、と思われた直後、惑星の地面に穿たれた巨大な穴の上に一瞬で稲妻が表示されました。作業点はその稲妻を表示するためのものだったようです。そしてブラー効果。やっぱりブラーかけんのかよ、と、終了直前完成の驚きと落胆が同時に僕を襲いました。

後にMAHIRO氏に聞いた
ところ、やっぱり第二戦でも時間が余ったので、DJの音楽に合わせて作業ウィンドウの開閉をしていた、とのこと。執拗に開閉する作業ウィンドウはそれだったようです。それも飽きて、もう作業を終わらそうと思ったのだけれど普通に終わっても面白くないので、どうせなら終了直前に作品を完成させようとあまり意味のない作業を繰り返していたそうです。

第二戦終了後、すぐに集計がされ、優勝者発表のときにはMAHIRO氏の名前が呼ばれました。

当然だ、というような顔をして戻ってくるんだろうな、と思っていると、当然だ、というような顔をしたMAHIRO氏が戻ってきました。賞賛の意を伝え、これで日本代表でニューヨーク大会だな、と言うと、またMAHIRO氏は怒りだし「日本代表じゃない、日本一だ。それにニューヨークへ行ったら優勝して世界一になるに決まっているが、行くかどうか決めていない。6月20日は肝機能検査という大事な用事があるのだ。」と吐き捨てるように言ったので、絶対行くように今も説得が続いています。

大会数終了後、一緒に晩御飯を食べていると、そこで僕は驚愕の事実を聞くことになりました。第二戦の、直前に作品が完成する演出は当然意図的に仕掛けたものだったのですが、そこで使われていた地面が割れるとか稲妻が最後に表示される、というテクニックは、ブレスト中に僕が寝てしまった後、一人でソフトウェアを弄っていて、初めて見つけた機能を組み合わせて表現したそうです。


ここまで来ると異常です。ニューヨーク世界大会に参加するとしたら、そこでも相当奇抜なことをやると思われ、今から楽しみだなあ、と、渋谷の不二家で「何故カレーライスより先にパフェを持ってくるのか。店長を呼べ。」と店員を怒鳴るMAHIRO氏を見ながら、僕はぼんやりと考えていました。


ああ、そうそう。六本木のアフターパーティーでは、某学校の校長先生から、講師やってみないか、と誘われていましたよ。既に仙台と東京の専門学校で講師もしているMAHIRO氏。こういう先生が教えているのであれば、今後、大量にキワモノクリエイターとか排出されそうです。楽しみですね。

1 件のコメント:

  1. ※mahiroはもっと大人しくて気さくな若者です。
    …って書いてももう遅いな-_-;
    概ね書いてある内容が正しいだけにたちが悪いw

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